“読書の秋”
ページ数:325ページ(全5編からなる連作短編小説)
読了しやすさ:★★★★★
悩みを持った人々が、ふとしたきっかけで訪れた小さな図書館。
仕事や人生に行き詰まる彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトで後押しします。
自分が本当に「探している物」に気がつき、明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。
<スタッフおすすめポイント>
誰かに悩みを打ち明けられたとき、そっと本を差し出せる人って素敵ですよね。
最近は本の選書サービスも増えていますし、チャプターズも「誰かの気持ちに寄り添える作品を」と思いながら毎月4冊を取り揃えております。
本作は、そんな選書の良さをぎゅっと詰め込んだ内容。主人公の司書さんが選ぶ本は、どれも「なるほど!」と手を打つ意外性と納得感に溢れ、次はどんな本を選んでくれるのだろうと、どんどん読み進めてしまいます。
"どんな本もそうだけど、書物そのものに力があるというよりは、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ"(本文より引用)
本が好きな人はもっと本が好きになり、久しぶりに読書を始める方は「本っていいなあ」としみじみ思わせてくれるはずです。
この秋、本の良さを改めて感じさせてくれる度直球な一作。誰かに本を贈りたくなるので、チャプターズのビデオチャット・アペロで出会えたお相手と本のお勧めしあいっこも楽しそうです。
※バックナンバーは通常ブックカバーでのお届けです。
“読書の秋”
ページ数:299ページ(長編小説)
読了しやすさ:★★
教養度:★★★★★
本が禁止され、見つかった書物は焼き尽くされる近未来。
そんな書物を焼き尽くす仕事「昇火士」として働く主人公の男は、ある晩、風変わりな少女との出会いを機に人生が劇的に変わってゆく…。
読書が悪とされるSFの世界を通じて、本が私たちに与えてくれる価値とは何かを再確認していく。1955年発表、SF界の不朽の名作がここに。
<スタッフおすすめポイント>
本作、まずは設定の斬新さに驚かされます。主人公の仕事「昇火士」の任務は、火を消すことではなく書籍を焼き捨てること。
海外文学特有の難しさと、現実と逆転した前提条件に冒頭は戸惑いますが、さすが名著!80ページを超えたあたりからぐっと物語に惹き込まれて、素晴らしい読書体験が待っていますので、どうか冒頭の壁を超えてください。
本を人々から奪うことで"考える"ことを放棄させた社会、本質に触れず受け身で生きていくことの楽さ・虚無・本のくだらなさ。この皮肉な描き方が秀逸で、選者(書店主・森本)的にはこんなに付箋を貼る手が止まらない小説は久しぶりでした。インターネットがない時代に書かれたと聞くから驚き!不気味なまでに現代社会とリンクします。
ディストピア小説を読むと常々思うのですが、作品はどれだけむごい展開でも、進化に対して物語で立ち向かう実際の人間がいるという事実に、不思議と希望を感じてしまいます。
面白さ、教養、文句なし!本作と出会えたら、きっと今年は忘れられない"読書の秋"になると思います。
※バックナンバーは通常ブックカバーでのお届けです。
“読書の秋”
ページ数:213ページ(短編小説集)
読了しやすさ:★★★★★
久しぶりに再会した元彼と飲むビールの味、男友達と初めて寝てしまった夜の記憶、捨てられない元彼の本、不倫相手が帰っていった早朝の電車の音…。
まっすぐ進まない恋をしている人にだけ見える景色がある。
せつない記憶を切り取った三十七のショートストーリーに短歌を添えて贈る、人気歌人の短編集。
<スタッフおすすめポイント>
11月って、冬に向けてやけに人恋しくなったり、なぜかものすごくデートしたくなったり。
"読書の秋"は、個人的に"恋愛の秋"でもあると思います。
そんな切ない季節にぴったり。本作は「記憶」をキーワードに、様々な瞬間の胸キュンを切り取った短編集です。
一つ一つの短い物語が全て短歌で締め括られるので、なんだか読書というよりも、ラブソングの歌詞を読んでいるような。
音楽はJ-pop、Netflixは恋愛ドラマ!な方はきっとハマると思います。
長編の恋愛小説って、主人公に感情移入ができないと、読了まで作品との距離がなかなか縮まらないのですが、本作は短いのでどこかにきっと自分を投影できる描写があるはず。このサクサク読書感が、恋愛小説の湿っぽさをちょうど打ち消す作用もあり、恋愛だけじゃない爽やかな読書体験でした。
個人的には、別れ際のカップルが本棚を整理する、3つめのお話「二冊」がお気に入りです。
この秋、本からしばらく離れている方や、読了に自信のない方もきっと楽しめるはず。
※バックナンバーは通常ブックカバーでのお届けです。
“読書の秋”
ページ数:221ページ(エッセイ)
読了しやすさ:★★★
一歳と四歳の娘と始めたパリでの母子生活。
近づく死の影から逃れるための突然の帰国。
夫との断絶の中、フェスと仕事に追われる東京の混迷する日々……。
6年間のパリ生活に終止符を打ち、東京に帰国した作家である著者が、前後2年間で感じた孤独と苦悩を綴ったエッセイ。
<スタッフおすすめポイント>
本作は、パリ編と東京編、著者の身を置く環境に応じて大きく2つのパートに分かれています。パリでの生活、そう聞くと華やかで楽しげな姿ばかりが浮かびますが、そんな浅はかな妄想を冒頭から裏切り、全体的に暗く、アンニュイなトーンで進みます。
"自分を愛することを認めてくれる人はたくさんいるけれど、自分を愛さないことも認めてくれる人は稀有で、彼女はその一人だと思う"
本の帯に書かれたこの推薦文に、読了後改めて読むと心から共感。ここまで脆い感情を包み隠さず見せてくれるエッセイは珍しく、解像度の高さはさすが作家さんです。こんなにも脆く危うい自分の性格を「図太い神経」と形容する著者は、きっと優しい人間なのだろうと個人的には感じます。
選者(書店主・森本)は、本書を偶然少し元気のない時期に読み始めまして。
終盤、気がつくと本を抱きしめており、大切に読了したあとあらゆる友人に買ってプレゼントしました。個人的にはそれほど良かったのですが、友人からは「ちょっと読みづらい」「暗いかも」というコメントも笑。
好き嫌いが分かれると思いますが、自分が嫌い・愛せない日々にそっと寄り添えればと思い、選書しています。
作家の日常、という観点で"読書の秋"の選書にラインナップしましたが、正直本作を入れたかったので強引にねじ込みました。
パリや東京など居場所はほとんど重要ではなく、精神世界の話のように思います。今月、少し気持ちが下降・停滞気味の方は、ぜひこちらを。
※バックナンバーは通常ブックカバーでのお届けです。