“イチバン”
ページ数:252ページ
読了しやすさ:★★★★★
チャプターズ会員が選ぶ好きな作家:第2位
作品の種類:全18章の短編小説集(冒頭30ページを読めばアペロに参加できます)
ささやかな日常の断片を切り取るエピソードから、寓話のような物語、怪談話の様式をとった少し不思議なお話まで、人気作家が描く短編小説集です。守備範囲の広さ・カジュアルなのに深みを感じられる読後感が、本作の魅力と言えるでしょう。
特におすすめしたいのは、スライス・オブ・ライフと云ってもよい、いくつもの日常的な風景たち。ほとんどのエピソードにはこれといった抑揚がなく、そこにあるのは男女の出会いや別れ、暮らし、ありえたかもしれないもう一つの生活へのしずかな憧憬です。断片的な物語でありながら、ひとつひとつに奥行を感じ、一つの長編小説のような緩やかなつながりも感じます。
『[…前略]どこまでいったって、たいして変わりばえのしない景色だ。昔はずいぶん素敵な景色みたいに思えたものだけれどな。隣りの席に座る相手だけが時々変わる。』
最近「歳を重ねたな」とか「大人になったな」というふうに感じている方にぜひ読んでいただきたいです。旅先で会ったそのときかぎりの友人のように、この本はきっと良い話し相手になり、良い聴き相手になってくれるはず。
コーヒーほど渋くはないけれど、ビールのようにすこし苦い。大人向けの一冊です。
推薦文寄稿:京都岡崎 蔦屋書店 くらし担当 井村拓哉
“イチバン”
ページ数:384ページ
読了しやすさ:★★★★(長編ですが大変読みやすいです)
チャプターズ会員が選ぶ好きな作家:第5位
舞台は少し時代を感じる東京駅。主人公は、忙しなく駅を往来する普通の人々。
いつもの日常、誰しもが過ごす毎日の変わらない日常。
そんな1人1人の何気ない日常が、いつの間にか大きな物語へと繋がるドタバタコメディをご紹介。
兎に角、読みやすい!
登場人物もかなり多いにも関わらず、緻密に練られたキャラクターと次の章が気になって仕方がない前触れの数々に、前後の文を読むだけで「あぁ……あの人ね!」と分かってしまう。詳しい内容はぜひこの本を手に取ってみてから、きっと頭の中が映画館になるはず。
おススメをしておいて言うのは大変申し訳ないが、私は普段本を読まない。
というよりは日々に忙しくてなかなか読めないという言い方の方が正しい。でも、もちろん本は好きだ。
今回おススメの1冊を考えた時に、かつてよく本を読んでいた時分に戻り、改めてもう一度好きだった本を手に取ってみた。面白かった。
だからこそ、本作は「本は好きだが、なかなか読めない」そんな悩みを持っている同志には是非手に取って頂きたい。
エンターテインメントに富んだ本作は、まさに読む映画だ。
推薦文寄稿:京都岡崎 蔦屋書店 副店長 橋本幸栄
“イチバン”
ページ数:288ページ
読了しやすさ:★★★★
チャプターズ会員が選ぶ好きな作家:第6位
ジャンル:全9章の短編小説集(忙しい・読了に自信がない方もアペロに参加しやすい作品です)
稀代のストーリーテラーとして絶大な人気を誇る作家の、四半世紀前に刊行された短編小説集です。一冊通して「笑い」をテーマに紡がれるストーリーたちはちょっとダーク。
鬱積する思いが交錯する満員電車の数分間。
質素な年金暮らしの中で思いがけず芸能人にハマり追っかけと化す老女の悲喜劇。
「UFOはタヌキだ」という自説に命をかける男の人生。
死体を巡って勃発した2つの分譲住宅地の住民の負けられない戦い。
悪というほどでもない。でも誰もが持つ小狡さや、保身の卑しさ。自分勝手さや傲慢さ。純粋すぎて厄介な思い込み。描かれる人間の滑稽で物悲しい姿に他人事のように笑いつつ、ふとそんな部分が自分にもあるのではと思うと少しヒヤリとするかもしれません。
1篇ずつに作者の丁寧な解説がついているのもレア。関西人の作者のユニークでシニカルな視点に笑って刺される1冊です。
『「たんたんタヌキ」というフレーズがあった。この、たんたん、とは何だろうと考え続けてきたのだ。「ねんねんネコ」とか「いんいんイヌ」とかはいわない。』(本文より)
気になりませんか?たんたんタヌキ。
推薦文寄稿:京都岡崎蔦屋書店 ギャラリー担当 祖父江未範
“イチバン”
ページ数:233ページ
読了しやすさ:★★★★
チャプターズ会員が選ぶ好きな作家:第10位
ジャンル:全12章の短編小説集(忙しい・読了に自信がない方もアペロに参加しやすい作品です)
言葉は不自由なものだとわかっていても、私たちは大切な人とわかり合いたいときに言葉を尽くします。そして大体は適当な言葉を見つけられず、少しの寂しさと諦めが少しずつ澱のように心の底に溜まってしまう...人間関係に疲れたとき、やるせなくなったとき、この本を開いてみて欲しいのです。
本書は女性を主人公にした12の物語からなる短編集。
立場や性別が違ったとしても、誰しもが経験のある感情が繊細に描かれています。
たとえば。
若い頃経験した不恰好で退屈なデートの思い出を話してみようとするが、いざ言葉にしてみると自分が抱えていた想いと違うものを感じる女性。
色々な出来事を一緒に楽しむことができる幸福な夫婦関係を築いているけど、どこかで通じ合えていないことを感じる女性。
登場する彼女たちは、自身の感情を持て余し時に我儘であったり意地っ張りであったり、小説というよりまるで自分自身の本音が並ぶようなどこか恥ずかしさと心地よさがあります。
2023年の読書はじめ。本書を通じて、自分自身を許し、そして今より愛おしく思うことができることを願います。
推薦文寄稿:京都岡崎 蔦屋書店 アートコンシェルジュ 田辺真弓