“読泊-ホテルステイ-”
ページ数:253ページ(連続短編小説ですので、第1章を読み切ればアペロに参加可能、お忙しい方にも◎)
読了しやすさ:★★★★
読泊したくなる度: ★★★★
今は無き、語り継がれし幻のホテル。
穏やかな支配人が温かく出迎えてくれる、海風の心地よいお宿はこちらです。
2人の娘と妻を捨て、多額の借金を抱えた自暴自棄な主人公。
彼が偶然立ち寄ったホテルに居候するところから本作は始まります。
"持って行き場のない怒りをかかえて、うろうろと街を徘徊し、人を妬み、裏切り、失望し、大勢の人たちに迷惑をかけて生きていた。"(本文より引用)
冒頭から、主人公がもう既に一つの大作を終えたかように憔悴しきっている様子。ある種アフターストーリーのような静けさで始まるこの小説はどこへ向かっていくのだろうと読み進めると、再生の軌跡でした。
本作は、70歳を迎えた大物作家の自伝的小説のため実話をベースに描かれています。主人公をしばらくの間無銭で宿泊させるホテル支配人との出会いに、「こんな優しい人との出会い人生にある?!」と声が出そうになりますが、そういう巡り合わせも含めて作家という職業なのかなと感じます。
美しく繊細な、夏の子守唄のような作品。テンション控えめなので、夏の暑さに参っている方はぜひこちらをお選びください。
そして、できることならぜひ海の潮風を感じながら読んで頂きたい作品です。
“読泊-ホテルステイ-”
ページ数: 271ページ
読了しやすさ:★★★★
読泊したくなる度: ★
スペインのアットホームなお宿で、異文化交流しませんか?
今月ご紹介する4つの宿泊先の中では唯一のユースホステル、布団はじめじめ、バスタブなんてもちろんありませんが、ワイルドでカラッと最高に明るい旅をお約束します。
キリスト教の聖地・サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの900kmを歩いて目指す「サンティアゴ巡礼」。サンティアゴ巡礼をすると、過去の罪を清算してくれるという言い伝えがあり、スペインの観光では人気のアクティビティなんです。日本でいうところの、四国お遍路旅とでもいいましょうか。
そんなサンディアゴ巡礼に訪れしは、離婚ほやほやの日本人女性。傷心と勢いだけで旅立った彼女が、サンティアゴ巡礼を通じて多くの人々と出会い、豪快に飲み、傷心を吹き飛ばす44日間の体験談をまとめたエッセイです。
本作の魅力は一言、底抜けの明るさ!
それぞれが過去に向き合い、赦しを乞うために歩いているはずなのに、作者を含め全員陽気。巡礼と聞いて想像する、感動や感傷の要素が一切ない点がいっそ清々しく元気が出ます笑。
この宿に泊まれば、今抱えている悩みごとを一緒に笑い飛ばせるかも。読み手も達成感を感じられるような旅の後味が、夏の暑い日差しにもぴったりです。
“読泊-ホテルステイ-”
ページ数:272ページ
読了しやすさ: ★★★★★
読泊したくなる度:★★
「ようこそ、フィデルホテルへ!」
今月の4作品の中で唯一、ホテルで"働く"立場から楽しむ痛快お仕事小説です。
とある中堅ホテルの立て直しのため、就任した社長がいきなり提案した、風変わりな人事制度。翻弄されながらも、前向きにお仕事に向き合う5人それぞれの従業員の立場から物語を追った連続短編小説です。
"ホテルは私の舞台。おしゃれをしてこのホテルに来るのが生きがい。あなたも楽しいだけじゃなくて、生きがいになるといいわね"(本文より引用)
常連客がベルボーイに伝えるこの一節。ホテルのあちこちで起きる出来事に、登場人物の一人(例えば通行人A)として自分も参加している気がすると続けるという常連客・今井さんの言葉は、どこか読書の楽しさと通じるものがあるなと感じました。
読みやすさと面白さはお墨付き!後半にかけて畳み掛けてくる仕事のやりがいを問う展開は、8月も忙しい!そんなビジネスパーソンや学生さんにきっとぴったりです。
“読泊-ホテルステイ-”
ページ数:443ページ
読了しやすさ:★★
読泊したくなる度:★★★★★
タイ・バンコク、チャオプラヤ河すぐの高級ホテル。
一夏の恋と一緒に、エキゾチックなリゾートステイはいかがですか?
この作品、物語全体を纏う亜熱帯の気だるい雰囲気が、夏の気候に最高にマッチするんです。チャオプラヤ河を何度も往来するゴンドラ、ぬるい風が揺らす蚊帳、酸っぱい汗と南国フルーツの匂い...物語というよりも、その空気感をぜひお楽しみ頂けたらと思います。
本作は、タイ王家の血を引く金持ちに見初められた日本人のヒロインが主人公。何一つ不自由のないリッチな生活を送りながら、代わり映えのない毎日に退屈していたタイミングに、出張でタイを訪れた日本人男性と出会い恋が走り出します。
王道すぎるこの展開、ディズニーやラブコメ好きはもう堪らないはずですが、ヒエラルキーやセクシュアリティといったキーワードも作中に登場し人間臭さがかなり緻密に描かれているため、単なるラブストーリーでは終わらない面白さがあります。
読み終えた時、本作が1989年に発表された作品だと知って驚きました。
チャプターズでは初めてお迎えする作家さんですが、他にもたくさんの素晴らしい作品を発表されているため、新たに好きな作家さんとの出会いを期待する方はこちら一択。希望を捨てない力強い主人公を描くのが、彼の作風なのかなと勝手に推薦人(森本)は解釈しております。
30年経った今も色褪せない国際派のラブストーリー。
今月唯一の、本格長編小説です。